サイゼリヤが、本当に値上げした。「言っただけでストップ高」から3か月、答え合わせをしてみた
ミラノ風ドリアが、300円ではなくなる。
7月、サイゼリヤの社長が決算の場で、値上げを「視野に入れる」と話しただけで、株価はストップ高(1日に上がってよい上限まで上がること)になった。そのときの記事では、値上げのニュースで株が上がる仕組みを「てこの原理」で説明した。もうけがうすい商売ほど、少しの値上げで、利益が何倍にも増える。てこのように、小さな力が大きく効く、という話だ。
そして10月14日、サイゼリヤは決算と一緒に、本当に値上げを発表した。10月29日から、メニュー全般で平均6%。翌15日の朝、日経平均が大きく下げる中で、サイゼリヤの株は前日より1割ほど高い7,300円で始まった。
7月に書いたことは、当たっていたのか。答え合わせをしてみる。
1. 何が決まったの?
まず、値上げの中身から。
会社は、値上げの理由をこう書いている。
当社の努力不足により、食材の不足や原価上昇を吸収できない事態が発生
要は、原材料が高くなりすぎて、もう自分たちの工夫だけでは吸収できない、ということだ。「努力不足」と自分から書くところに、長く「値上げしない」を続けてきた会社らしさが出ていると思う。決算短信でも、これまでのメニュー価格を維持する方針を、状況に応じて価格を改定する方針に変えると書いている。
2. 答え合わせ① 「てこの原理」は当たっていた?
7月の記事では、架空のお店で計算した。1,000円の料理を出して、もうけが50円(利益率5%)のお店がある。10%値上げして1,100円にすると、コストが変わらなければ、もうけは150円。利益は3倍になる。
実際の数字と並べてみる。
実際のサイゼリヤの国内の利益率は約3.0%で、架空のお店の5%よりさらにうすかった。値上げ幅は、架空のお店の10%より小さい平均6%。サイゼリヤの数字を同じ計算に当てはめると、1,000円売ってもうけが30円のお店が6%値上げすれば、コストが変わらない限り、もうけは90円。やはり3倍になる。
でも会社の計画は、国内の営業利益を60億円から100億円へ、約1.7倍にするものだった。3倍に届かない理由を、会社は説明していない。日経によると、値上げで国内の粗利率(売上から食材などの原価を引いて残る割合)は2ポイント良くなる効果があるという。でも会社の計画では、国内の粗利率は51.7%から52.1%へ、0.4ポイントしか良くならない。値上げの効果の多くは、コストの上昇などで消える前提だと読める。実際、2026年8月期(2025年9月〜2026年8月)も、海外から仕入れる食材にかかる為替の影響で約32億円、鶏肉などの値上がりで約19億円、国内の利益が押し下げられていた。
それでも、利益がうすいお店ほど、値上げが利益に大きく効く。てこの原理そのものは、会社の計画に表れていた。
ちなみに、会社全体の2027年8月期の計画は、営業利益が29%増の212億円。4期連続で最高益を更新する見込みだ。ただし増益の大半は下期(2027年3〜8月)に置かれていて、上期(2026年9月〜2027年2月)の営業利益はほぼ横ばいの計画だ。
3. 答え合わせ② 「どこでも同じ値段」は、どうなった?
「日本全国、どこでも同じ安さ」は、サイゼリヤの看板だった。場所ごとに値段を変えるなら、会社の考え方そのものの大きな転換になる。
結果は、一部だけの導入。レジャー施設の周辺や都市部の24店舗だけが平均10%の値上げで、ドリアは330円。残りの店は平均6%で、ドリアは320円になる。
4. 答え合わせ③ 株価は、この3か月でどう動いた?
7月16日、値上げを「視野に入れる」という一言でストップ高。そのあとも上がり、7月29日には終値で8,310円の最高値をつけた。7月15日から2週間で、44%上がったことになる。
でも、そこから下がり始める。9月24日には6,310円まで下がり、最高値から2割以上下げた。決算を発表した10月14日の終値は6,550円で、ストップ高の日の6,780円より安い水準だ。
そして翌15日、株価は1割ほど高く始まった。
株価は「起きたこと」より「これから何が起きるかの見立て」に反応する。この3か月は、その見本のような動きだったと思う。「値上げするかも」で大きく上がり、いつ、どれだけ値上げするのか見えないまま下がり、「本当に値上げする」で、また上がった。それでも、7月29日の最高値には、まだ届いていない。
5. わたしの見方
財布の目線では、わたしにとって外食は、人生を楽しむために「使うと決めて使うお金」だ。値上げされても、食べたければ払うだけだ。
投資の目線では、値上げのニュースは「この会社のもうけは、どれだけ変わるのか」を考える材料になる。まず、その会社のもうけがうすいのか、厚いのかを見てみる。もうけがうすい会社ほど、値上げが利益に大きく効く。サイゼリヤの値上げで株価が大きく動いたのも、そう読むと納得がいく。
経済学の父と呼ばれるアダム・スミスは、1776年の『国富論』にこう書いている。
肉屋や酒屋やパン屋の善意のおかげではない。
彼らが自分の利益を考えるからだ。
アダム・スミス『国富論』第1編第2章(1776年)
スミスはスコットランドの学者で、『国富論』は「国の豊かさとは何か」を問う本だ。当時のヨーロッパでは、金や銀をたくさんため込む国が豊かだと考えられていた。スミスはそれに反対して、国の豊かさは、人々がつくり、交換するものの多さだと考えた。
この言葉が出てくるのは、人がなぜ分業し、ものを交換するのかを説明する章だ。パン屋は、わたしたちのことを思ってパンを焼いているわけではない。売れば自分の暮らしが立つから焼いている。わたしたちも、パン屋の思いやりにすがるのではなく、お金を払って、相手にも得になる取引をする。 ただ、スミスは「自分さえよければいい」と言ったわけではない。その17年前には『道徳感情論』という本で、人が相手の気持ちを思いやる心が大事だと論じている。それぞれが自分の暮らしのために働き、相手にも得になる形で交換する。そのほうが、善意だけに頼るよりも、社会全体がうまく回る。この言葉には、そういう意味がこめられている。
サイゼリヤの安さも、善意だけで続いてきたわけではない。安さでお客さんを集めることが、商売として正しかったから続いてきた。そして今、原材料が高くなって、その計算が合わなくなった。だから値上げする。安さも値上げも、どちらも商売としての判断だ。
お客さんが320円のドリアを「それでも食べたい」と思えば、取引は続く。会社とお客さんの両方が得をする値段かどうか、それを決めるのは、10月29日からのお客さんだ。
6. まとめ
- サイゼリヤが10月29日から、メニュー全般で平均6%値上げ。ミラノ風ドリアは300円から320円に
- 7月は値上げを「視野に入れる」と話しただけでストップ高。値上げを発表した翌日の10月15日、株価は1割ほど高く始まった
- 国内の利益率は約3%とうすい。平均6%の値上げで、会社は国内の営業利益を約1.7倍にする計画
- 計算では3倍でも、会社の計画は約1.7倍。値上げの効果の多くは、コストの上昇などで消える前提だと読める。それでも「てこの原理」は計画に表れていた
- 「どこでも同じ値段」は、24店舗だけ平均10%に変わった。ドリアは330円
- 株価は7月29日の最高値(終値)から2割以上下げたあと、戻り始めたところ。値上げのニュースは、その会社のもうけのうすさから読むと分かりやすい
・決算:サイゼリヤ「2026年8月期 決算短信」、同「決算説明資料」(2026年10月14日)
・報道:日本経済新聞(2026年7月16日)、日本経済新聞(2026年10月14日)、時事ドットコム(2026年10月14日)、株探(2026年10月14日)、株探(2026年10月15日)
・株価:Yahoo Financeの日次の終値(サイゼリヤ 7581、日経平均)、株探 時系列
・格言:Adam Smith『An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations』(Project Gutenberg)(訳はわたし)




