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「手数料無料」は、誰にとって無料なのか。金券ショップで考えてみた
投資2026-08-11📖 約16分で読めます

「手数料無料」は、誰にとって無料なのか。金券ショップで考えてみた

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ごまもち
🐾 ごまもち
ただなら、だれも もうからないんじゃないの?🐾
あずき
あずき
それがね、過去最高益なんだって。だから調べてみたの。

日本株の売買手数料は、いまや0円だ。わたしが注文を出すのは月に数回くらいだけれど、何回押しても1円も引かれない。

なのに、証券会社は過去最高益を出している。

「タダより高いものはない」と言うけれど、本当にそうなのか。それとも、本当にタダなのか。

前の記事でアメリカの仕組みを少し調べたら、思ったより奥があった。今度は日本の話として、もう一段だけ掘ってみる。


1. 手数料が無料なのに、どうやって儲けているのか

まず、事実の確認から。

💰 いま起きていること
2023年秋、ネット証券大手が国内株の売買手数料をゼロ
その後も追随が続き、いまは約定代金がいくらでも無料のところが多い(条件は各社ちがう)
→ それなのに、各社は過去最高益を更新している

値下げをして、利益が増えている。ふつうに考えると、おかしい。

どこかに、別の入り口があるはずだ。


2. 昔は、はっきり払っていた

いまが特別なのか、昔が特別だったのか。まず歴史を見た。

📉 手数料が消えるまでの50年
できごと
1975年5月
(米)
固定制を廃止。それまでは取引額の1〜2%が一律だった
1999年10月
(日)
完全自由化。それまでは100万円の取引で11,500円
2019年10月
(米)
大手がそろってゼロ
2023年秋
(日)
ネット証券大手が国内株をゼロ

買って、すぐ売る。それだけで資産の2.3%が消えていた時代が、1999年まであった。

ごまもち
🐾 ごまもち
それじゃ、なんども うれないね🐾
あずき
あずき
そこなんだよね。高いって、ブレーキでもあったんだよ。

50年かけて、1〜2%が0%になった。

安くなったことは、まちがいなくいいことだ。わたしも、その恩恵を受けている。

ただ、払う痛みがなくなったということでもある


3. 株の売買には、必ず「相手」がいる

ここから仕組みの話になる。わたしはここが分からなかったので、金券ショップにたとえてみる。

まず大前提から。あなたが株を「買う」ということは、同じ瞬間に誰かが「売っている」ということだ。

昔は、取引所が売りたい人と買いたい人を引き合わせていた。いまは、その間に「お店」が入っていることがある。

🎫 金券ショップの儲け方
駅前の掲示板(=板) 街のみんなの言い値が並ぶ お店が買い取る 1,000円 お店が売る 1,010円 差の10円が、お店の儲け
株の世界では、この「お店」をマーケットメーカーと呼びます。売値と買値の差はスプレッドです

お店は、いつも2つの値段を出している。「1,000円で買い取ります」「1,010円でお売りします」。

この10円の差が、お店の儲けだ。

そして大事なのは、これが特殊なやり方ではないということ。両替商も、中古車屋も、卸売りも、安く仕入れて高く売るという同じ形をしている。手数料より、ずっと古い商売だ。


4. アメリカでは、お店が証券会社にお金を払っている

アメリカでは、この構造が一歩進んでいる。

⚠ PFOF(注文フローに対する支払い)
証券会社が、個人の注文をお店に回す
お店は、証券会社にお金を払う
→ だから証券会社は手数料をゼロにできる

規模も出ている。2021年、アメリカの大手12社が受け取った額は38億ドル。

お店がお金を払ってまで個人の注文をほしがる理由は、相手として都合がいいからだ。プロの投資家は特別な情報や分析で動くので、相手をすると損をしやすい。個人の注文には、そうした情報が乗っていないことが多い。

このあたりは前の記事に書いた。


5. 「板より高く買わされる」わけではなかった

ここで、わたしの予想が外れた。

てっきり、掲示板より高い値段をつかまされていると思っていた。でも、数字は逆だった。

🔍 掲示板より安く買えた割合(アメリカの調査)
取引所で買うと:100株のうち9株
お店で買うと:100株のうち66株
→ お店のほうが、約7倍多い

お店を通したほうが、掲示板より安く買えることが多い。これを価格改善という。

金券ショップの人が「掲示板は1,010円ですけど、うちなら1,008円でいいですよ」と言ってくれる状態だ。業界がいちばん強く主張するのが、ここになる。

たしかに、ぼったくられてはいない


6. でも、差額の行き先を見ると

引っかかったのは、その次だった。

あなたが得した2円は、どこから来たのか。そして、残りはどこへ行ったのか。

💸 差の10円は、どこへ行くのか
誰のところへ 10円のうち
あなたに戻る 2円
証券会社へ 0.1円
お店に残る 7.9円
アメリカで行われたある調査では、この配分は24%・1%・75%でした。上の表は3章の10円にあてはめた概数です

戻ってくるのは、10円のうち2円だった。

5章で「うちなら1,008円でいいですよ」と言われた2円が、これにあたる。

そして目を引いたのが、真ん中の行だ。証券会社の取り分は、0.1円しかない。1回の注文で入るのは、その程度ということになる。だとすると、証券会社の稼ぎは別のところにあるはずだ。

もうひとつ、気になる数字があった。掲示板より高く買ってしまった割合だ。

⚖️ 掲示板より高く買ってしまった割合(アメリカの調査)
取引所で買うと:100株のうち2株
お店で買うと:100株のうち7株
→ お店のほうが、3倍以上多い

安くなるほうにも、高くなるほうにも、お店のほうが振れが大きい。

つまり、こういうことだった。平均すれば得なのは本当だけれど、1回ずつ見ると当たり外れがある。

ごまもち
🐾 ごまもち
けっきょく、そんしてるの? してないの?🐾
あずき
あずき
それがね、ちょっとややこしいの。

損はしていない。ちゃんと得もしている。ただ、10円のうち8円近くは、お店のものだ。


7. 無料には、条件がついていた

日本には、アメリカのようなお店から証券会社への支払いは確認できない。その意味では、事情が違う。

ただ、調べていて「なるほど」と思ったことがあった。

手数料が無料になるコースには、条件がついている場合がある。

📄 公表されている条件の例
あるネット証券大手の無料コースは、手数料0円のかわりに、指定の注文方式(SOR注文)の利用が原則必須
SOR注文は、複数の市場を自動で比べて、有利なところへ回す仕組み
→ その接続先には、取引所のほかに私設の市場や自社のダークプールも含まれる

ダークプールというのは、取引所の板に出さずに売買を成立させる場所のことだ。言葉の響きは怖いけれど、やっていることは3章のお店と同じで、注文の相手方になるというだけになる。

日本のネット証券も、同じような仕組みをすでに持っている。

✅ 各社が公表しているルール
取引所以外へ回すのは、取引所と同じか、有利な値段のときだけと各社の最良執行方針に書かれている
→ つまり取引所より不利な値段にはならない

アメリカとの違いは、ここだった。

「お店が相手方になる」形は日本にもある。でも「お店が証券会社にお金を払う」形は確認できないし、不利にしないルールが明文化されている。

ただ、ひとつはっきりしたことがある。無料は、ただの親切ではない。条件がついているということは、証券会社の側にも、そうする理由があるということだ。


8. では、どこで儲けているのか

手数料をゼロにして、なぜ過去最高益なのか。

その前に、ひとつはっきりさせておきたい。ここまでの差額の話は、すべてアメリカの数字だ。

7章で見たとおり、日本では、お店から証券会社への支払いが確認できない。つまり日本の証券会社は、あの0.1円にあたるお金も受け取っていないことになる。

手数料もゼロ。差額の分け前もない。だとすると、なおさら分からなくなる。

そこで、日本のネット証券が何で稼いでいるのかを調べた。

まず分かったのは、そもそも無料にできる下地があったということだ。無料化に踏み切る前の時点で、あるネット証券大手の国内株の委託手数料は、営業収益の11.2%ほどでしかなかった

残りの9割近くは、はじめから別のところから来ていた。

🏦 手数料以外の入り口
入り口 中身
信用取引の金利 お金を借りて売買する人から受け取る利息。年2〜3%ほど。取引が活発なほど増える
投資信託の信託報酬 残高がある限り、毎日少しずつ入り続ける。売買がなくても積み上がる
口座数そのもの 無料は客集め。口座が増えれば、その人たちが投資信託を積み立て、一部は信用取引や外国株もする。つまり上の2つが、人数ぶん増える
その他 外国株の為替、FX、IPOの引受、グループの他サービスへの案内など

信用取引の金利は、お金を借りて売買する人から受け取る利息だ。年2〜3%ほどで、売買が活発なほど増えていく。 いっぽうで、新NISAがここに重なった。証券会社のNISA口座数は2023年末の1,428万から、2024年末には1,803万まで増えている。

投資信託の信託報酬は、残高が増えれば自動的に増える。しかも、その人が売買しなくても入り続ける。

つまり、こういうことだった。

💡 手数料無料は、値下げではなかった
いちばん目につく手数料を、ゼロにする
口座が増える
→ その人たちが投資信託を積み立てる
信託報酬が、毎日入り続ける

つまり、薄利多売だ。

📉 1人からもらえるのは、ごくわずか
低コストのインデックス投信の信託報酬は、年0.1%前後
→ 100万円あずけても、1年で1,000円ほど
→ しかもそのうち証券会社の取り分は、さらにその一部

1人あたりでは、年に数百円にもならない。だから、人数が要る

手数料をゼロにするのは、その人数を集めるための費用だった。

「無料にしたら儲からなくなる」ではなく、「無料にしたから儲かった」。

実際、無料化はそこで止まっていない。2023年12月には、米ドルと円の為替手数料もゼロになった。それでも各社は、最高益を更新し続けている。

そう考えると、2章の50年史ともつながる。手数料は、下がったのではなく、置き場所が変わった。


9. 取引が多いほど、得をする人と損をする人

ここまで調べて、いちばん引っかかったのはここだった。

8章で見た入り口のうち、信用取引の金利は、借りているあいだずっとかかる。年2〜3%ほどで、活発に売り買いする人ほど、使う場面が増える

いっぽうで、信託報酬は売買しなくても入る。むしろ、持ち続けてもらったほうがいいお金だ。ネット証券が積立をすすめるのも、それで説明がつく。

証券会社のなかに、向きの違う入り口が同居している。どちらが主力なのかまでは、外からは分からなかった。

それでも、取引が増えると得をする側があるのは事実だ。では、取引が増えると、こちらの成績はどうなるのか。

古いけれど有名な研究がある。アメリカで、個人投資家66,465世帯を6年間追ったものだ。

📊 売買の多さで、成績はどう変わったか
誰が 年率リターン
市場全体 17.9%
66,465世帯の平均 16.4%
そのうち、売買がいちばん多かった層 11.4%

売買が多い層だけ、市場全体に6.5%も負けている。同じ6年間、同じ市場にいたのに、である。

日本で同じ調査があるわけではない。ただ、売り買いの回数が多いほど成績が落ちるという傾向は、国が変わっても起きそうだと思った。

ここで、2章の話に戻ってくる。

100万円の取引で11,500円かかっていたころ、人はそう何度も押せなかった。高い手数料は、ブレーキでもあった。

いまは、押す痛みがゼロだ。

では、誰にとって無料なのか。

🎯 この記事の答え
わたしたちにとっては、ほぼ本当に無料だった。手数料はゼロで、取引所より不利な値段にもならない
→ でも証券会社にとっては、無料ではない信託報酬や信用取引の金利で、あとから回収している

10. わたしは、なにも変えなかった

ごまもち
🐾 ごまもち
あずきは、なんかしたほうが いいの?🐾
あずき
あずき
なにもしないよ。というより、売り買いしないこと自体が、答えになってるみたい。

調べてよかったとは思っている。手数料が無料でも、その先にお金の流れがあることは、なんとなく分かっていた。ただ、どこで誰がいくら取っているのかは、ずっとぼんやりしたままだった。

ただ、正直に言うと、わたしにはあまり関係のない話だった。

オルカンを毎月積み立てて日本の高配当株を117銘柄持っている。積み立てているのはオルカンだけで、買ったら基本的に動かさない。相場は読まず、航路を守ると決めている。

8章で見た入り口を、自分にあてはめてみた。

✅ 自分にあてはめると
信託報酬いちばん関係があるのはここだ。オルカンは年0.05775%、保有しているS&P500は0.09372%。100万円あずけて年578円と937円ほど
売買の回数 … 月に数回。積み立ては自動なので、押してすらいない
信用取引やっていない。借りていないので、金利もかからない

だから、何かを変える必要は感じなかった。

売買がいちばん多い層だけ、市場全体に6.5%も負けていた。あまり売り買いしないというやり方は、コストの面でも成績の面でも、いまのところ理にかなっている。

やらないことが、そのまま答えになっている

最後に、この記事を書きながらずっと頭にあった言葉を置いておく。インデックス投資の生みの親、ジョン・ボーグルのものだ。

投資では、
払わなかったぶんが手に入る
In investing, you get what you don't pay for.
ジョン・C・ボーグル

手数料はゼロになった。それでも、払っているものはまだある。信託報酬も、売買のたびの差も、借りたお金の金利も。

そのどれもが、リターンから引かれていく。裏を返せば、減らしたぶんは、そのまま自分の取り分として残る。

だからわたしは、余計なコストを払わない。再現性の高い方法で、これからも淡々と続けていく。そこは変わらない。


11. まとめ

🐾 この記事のまとめ
  • 日本株の売買手数料は2023年秋にゼロになったのに、証券会社は過去最高益。どこで儲けているのか調べた
  • 手数料は50年かけて消えた。米は1975年まで取引額の1〜2%、日本は1999年まで100万円で11,500円買ってすぐ売るだけで資産の2.3%が消えていた
  • 売買には必ず相手がいて、いまはその間にお店(マーケットメーカー)が入る。買値と売値の差で稼ぐ、金券ショップと同じ形
  • アメリカではお店が証券会社にお金を払う(2021年に大手12社で38億ドル)。掲示板より安く買えた割合は取引所100株のうち9株、お店は66株。ただし差の10円のうち、あなたに戻るのは2円、証券会社へ0.1円、お店に7.9円
  • 日本ではお店から証券会社への支払いは確認できない。かわりに無料コースには条件があり、接続先にはダークプールも含まれる。ただし各社の方針で取引所より不利な値段にはならない
  • そもそも下地があった。国内株の委託手数料は営業収益の11.2%ほど(無料化前)。信託報酬は残高がある限り毎日入り、新NISAで証券会社のNISA口座は1,428万→1,803万に増えた
  • つまり「無料にしたら儲からなくなる」ではなく「無料にしたから儲かった」。信託報酬は年0.1%前後なので人数が要る手数料は下がったのではなく、置き場所が変わった
  • 66,465世帯を6年追った研究では、市場全体17.9%に対し、売買がいちばん多かった層は11.4%100万円で11,500円かかっていたころ、人はそう何度も押せなかった。いまは押す痛みがゼロ
  • 答えは、わたしたちにとってはほぼ本当に無料でも証券会社にとっては無料ではなく、信託報酬や信用取引の金利であとから回収している
  • 自分にあてはめると、いちばん関係があるのは信託報酬だった。ボーグルの「投資では、払わなかったぶんが手に入る」のとおり、減らしたぶんはそのまま自分の取り分になる
ごまもち
🐾 ごまもち
ただだけど、ただじゃなかったんだね🐾
あずき
あずき
うん。でも、昔よりずっと安いのも本当なの。そこは素直にありがたい。
📚 参考にした情報源 ・手数料の自由化(米):1975 Stock Brokerage Commission DeregulationCharles Schwab「手数料ゼロの発表」(2019年10月)
・手数料の自由化(日):「株式売買手数料完全自由化から25年」The Japan Times「Zero-commission services intensify brokerage competition in Japan」(2023年10月)
・価格改善と差額の配分(この記事の中心データ):Dyhrberg, Shkilko & Werner「The Retail Execution Quality Landscape」(Journal of Financial Economics, 2025)
・PFOFの制度背景:The University of Chicago Business Law Review「A Disclosure Gap in the Market for Order Flow」米議会調査局「Payment for Order Flow: The SEC Proposes Reforms」
・無料コースの条件とSOR注文:楽天証券「SOR注文」SBI証券「SOR注文について」
・オルカンの信託報酬:日本経済新聞「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)のコスト」
・収益構成と為替手数料の無料化:ニュースイッチ(日刊工業新聞社)「株式取引に無料化の波…SBI証券・楽天証券は収益減の影響どう払拭するか」SBIホールディングス「『米ドル/円』の為替手数料無料化のお知らせ」(2023年11月)
・売買回数と成績:Barber, Odean「Trading Is Hazardous to Your Wealth」(Journal of Finance, 2000)
⚠ 免責事項 この記事はあずき個人の見解・体験のシェアであり、特定の投資手法・金融商品・証券会社を推奨・勧誘するものではありません。記事中の数字や各社の条件は2026年8月時点のもので、その後変更される可能性があります。最新の内容は必ず各社の公式サイトでご確認ください。過去の実績や統計は、将来の結果を保証するものではありません。投資は価格が変動し、元本を割り込む可能性があります。必ずご自身の判断と責任で行ってください。

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